愛するということ

◆愛は学ぶものか?:愛は技術である

 みなさんは愛について学んだことがありますか?

生まれたとき家族から無償の愛を受け育てられ、思春期になれば映画や音楽から愛とは何かをなんとなく理解し、誰かを好きになったりします。そして、愛する人と結婚します。このように私たちは、愛について学校などで教わるのではなく、経験の中からなんとなく愛についてを理解していると思います。

そもそも私は、愛が教わるものであるということなど考えたことがありませんでした。これから紹介する本は、愛について教えてくれる本です。

◆本書について

 今回紹介する本は1956年に著され、60年もの間世界中で読まれ続けられている『愛するということ』という本です。本書は精神分析学に社会的視点をもらたらしたエーリッヒ・フロムによって著されました。本書は4部構成になっており、愛は技術であるという前提に、1)愛の理論、2)愛の種類、3)愛の崩壊、4)愛の習練について述べられています。

◆愛するとは?:自分自身の愛に信念を持つこと

 本書の冒頭で衝撃的なことに、著者は「愛は技術である」と断言しています。そのため、大工仕事や医学、工学などの技術を学ぶときと同じように、知識と努力で養わなければならないと著者は述べています。さらに、愛とは能動的なものであり、愛の基本的要素は、他者への配慮、責任、尊敬、そして知が必要であることも述べられています。例えば、知の例として、他者のことを理解していなければ、他者への配慮や責任が検討違いのものになります。また、他者を知らなければ尊敬もできません。さらに、愛を習練するためには自分自身の愛に対する信念が必要だとも著者は主張しています。自分自身の愛に対する信念があって初めて、相手の中に愛を生むことができると信じられるのです。

◆愛に関するケーススタディー:ウォルト・ディズニーのリトルマーメイド

 先日、ウォルト・ディズニーのリトルマーメイドをミュージカルで観ました。この物語はまさに愛について教えてくれるストーリーになっています。

 主人公の人魚姫アリエルは、人間が作ったフォークやカップなどを集めることが好きで、人間に大変興味を抱いています。しかし、アリエルは海の王様である父トリトンから「人間は悪い生き物だから近づいてはならない」と教えられてきました。アリエルは父トリトンには内緒で人間の作った物や人間の様子を自分の目で確かめます。そして人間が悪い人ばかりではないと強く信じます。

ある日、アリエルは航海中の船に乗っていた人間のエリック王子に恋をします。そのとき、その船は目の前で嵐に襲われました。アリエルは、海に落ちて溺れてしまったエリック王子を必死に助け、砂浜まで運びました。そして、歌を唄いながら介抱し、エリック王子が目覚める前に海に帰りました。エリック王子は自分を助けてくれた美しい歌声を持つ女性に惹かれ、必ずその声の持ち主を見つけようと決心します。

海へ戻ったアリエルは、父トリトンからの反対を押し切り、魔女の元へ行き、自分の声と引き換えに3日間だけ人間の足を授かります。そして、3日目の日没までにエリック王子からキスをされなければ、アリエルの魂は魔女のものになる契約を交わします。アリエルは声を失い、言葉でのコミュニケーションがとれないながらも、エリック王子を見つけ、愛し、3日間だけ恋をします。しかし、アリエルは声がでないため、エリック王子は自分が惹かれていた声の持ち主がアリエルだということがわかりません。それでも、王子はなぜかアリエルに惹かれていきますが、キスまで至りません。そのまま時間が経ち3日目の日没が訪れ、アリエルは魔女に魂を奪われてしまいます。愛する娘を奪われた父トリトンは、自分の王国である海と引き換えにアリエルを返してもらうように契約をしようとします。そのとき、アリエルは勇敢にも魔女に立ち向かい、魔女の魂を壊します。そして、無事にアリエルと父トリトンは救われ、アリエルは父トリトンから人間になることを許してもらい、エリック王子のもとへ戻り、幸せな結婚をしました。

 この物語は、まさに本書で言う、愛の基本的要素(他者への配慮、責任、尊敬、知)と愛を達する基本条件(客観性、自分への信念)がすべて揃ったものだと思いました。アリエルは人間が悪い人ばかりではないという信念のもと、人間を理解しようと努め、人間が作る素晴らしい道具を見て、人間のことを尊敬します。そして人間であるエリック王子に恋をし、彼への配慮から彼の命を助けることができました。さらにアリエルはエリック王子を愛する余り、大切な声と引き換えに人間の足を手に入れ、その行動に責任を持っています。アリエルは、唯一のコミュニケーションツールであった声を失っても、エリック王子を愛せると信じることができたからこそ、エリック王子からも愛されることができたのだと思います。そして、初めはアリエルの言動に理解を一切示さなかった父トリトンも、アリエルの信念を信じ、アリエルが人間になること、そして人間と結婚することを許しました。

アリエルはまさに、自分自身の経験や、思考力・観察力・判断力に対する自身に根ざしている信念を貫き、他者を愛することができました。その結果、他者からも愛されることができたのです。

◆愛するために必要なこと:規律、集中、忍耐の習練

 愛するには、自分自身に信念を持たなければなりません。そして信念を持つには、習練が必要です。自分自身に信念を持つには、規律、集中、忍耐、この3つを鍛える必要があると著者は言っています。

規律とは、自分の目標のために自分の意思で自分に課す規律のことであり、行うことが楽しく思え、やめると物足りなくなるように感じることを指します。

集中とは、一人でじっとしていられるようになることで、そうすることで何かを行うときにそのことやものに対して心をこめることができます。

3つ目の忍耐とは、技術をマスターするためには時間がかかるということです。体得するまで忍耐強く習練し続けることが大切だと著者は述べています。これらの習練の結果、自分自身の愛に信念を持つことができ、その結果、他者からも愛されることができるということです。

 愛するということは上辺だけのものではありません。まず、自らを愛し、信念を持つことで他者を愛することができます。そして、それは特定の相手だけではなく、全ての人々をも等しく愛することが真の愛なのです。まるで神様のようですが、もし全ての人を等しく愛そうと努めれば、ちょっとした日々の対人関係によるストレスも軽減されるのではないでしょうか。

簡単にはできないかもしれませんが、愛は技術であるという著者の言葉を信じて、規律、集中そして忍耐の習練で養っていきたいと思います。

みなさんも日頃、対人関係でストレスを感じていたり、家族や恋人への愛について悩んでいるときはこの本を手にとって、愛について考えてみると答えが見つかるかもしれません。

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