美学への招待

◆あなたは直感を信じますか?

私は自分の直感を信じることに抵抗があります。理由は直感というものは曖昧だからです。明確な根拠がないため、頼れるものではないと思っていました。そして、だれもが直感というものをあまり信じていないものだと思っていました。しかし、最近、私の周囲には直感を大切にする人がたくさんいることに気がつきました。彼ら曰く、直感を信じた方が上手く行くケースが多いとのことでした。

◆本書の概要

今回ご紹介する本は、学問としての美学を著した『美学への招待』です。本書は、18世紀中葉にヨーロッパで確立した、美と藝術と感性を論ずる哲学のうちの、主に藝術に焦点を当てています。美学とは何かという導入から始まり、ポスターなどの複製の藝術、身体と藝術との関わり、古典的な藝術と現代的藝術の違いについて述べられています。また、時代とともに藝術が人間中心主義に変化していった経緯や近未来の美学として、人間を超える美学=自然の美について述べられています。

◆直感はどこからくるのか:過去の経験や記憶、知識の総合

私が本書の中で最も印象に残ったことは、「感ずる」ということが曖昧なものではなく、「極めて高次の浸透力をもった精神の働き」であることです。感性には直接性、反応・判断、総合性という3つの特徴があります。3つ目の総合性とは「いくつもの事実をもとにして、それらを暗黙裡に総合し、即刻判断している」ことを指します。総合性は、判断までのスピードが速いため、捉えられず曖昧なものと感じられます。しかし、その曖昧に思われがちな感性は、過去の経験や記憶、知識などの様々な要素が統合し、瞬時に判断された結果なのです。

私はこの概念を知ることで、直感というものも感性と同様に過去の経験や記憶、知識などにより判断されているものではないかと思いました。これまでの経験上、直感に従って行動したことが良い結果になったり、いろいろと考え、判断材料を用意した挙げ句、直感と同じ判断をすることがありました。このような判断はただの偶然ではなく、実は私の脳の中で、これまでの経験や記憶、知識などに基づいた極めて合理的な判断できていたのだと思います。

「ピンときた!」という経験は誰しもお持ちではないでしょうか。感性の3つ目の特徴(総合性)は捉えきれないほどのスピードで判断されるものなので、「ピンとくる」と表現されるのでしょう。このように瞬時に下される判断なので、無意識のうちにやっているものもあると思います。瞬時に下している自分の判断に意識を向けることで、自分の感性について理解が深まるかもしれません。

◆直感を信じること:自分を信じること

これまでの経験や記憶、知識といった要素から統合された感性は、いわば自分自身です。つまり、感性からなる直感を信じるとは、自分自身を信じることだと思います。

18世紀中葉にヨーロッパで美学が「美と藝術と感性を論ずる哲学」と表現されたように、これら3つはとても密接に関係しています。本書では藝術を中心に、時代風潮や身体によって捉え方や表現の仕方において影響をうけた美学について述べられているため、美、藝術、感性の関係性がイメージしやすい構成になっています。藝術や美学と言われると敷居が高く思われがちですが、感覚、感性、直感といった日頃「なんとなく」と感じているものを美学への入り口として、本書を読んでみてはいかがでしょうか。

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